バンコクに着いた初日の夜、ホテルの一階にあるレストランへ下りた。部屋に入ったのが六時、席に着いたのが六時半。荷ほどきもそこそこに、そのまま食事に向かった格好だ。

ホテルを一歩も出ずに、店に着く
IGNIV バンコクは、セントレジス・バンコクの一階にある。だから「食事に出かけた」という感覚がない。ロビーを抜けて、そのまま店に入る。
住所でいえばラーチャダムリ通り159番地、セントレジス・バンコクと同じ番地だ。泊まっている人間にとっては、エレベーターを降りれば着いてしまう。
スイスの料理人アンドレアス・カミナダのブランドで、ミシュラン一つ星。2022年に獲得し、2026年版まで維持している。
カミナダはスイスのシュロス・シャウエンシュタインのヘッドシェフで、そちらは三つ星。IGNIVはバート・ラガッツ、チューリッヒ、そしてバンコクの3都市にあり、バンコク店はスイス国外で最初のIGNIVにあたる。開業は2020年10月9日、ヘッドシェフはアルネ・リーン。星はミシュランガイド・タイ2022で初めて付いた。


客席はオリーブ色のソファに白いクロス。ガラス面に沿って植栽が置かれ、卓上には小さな灯りがある。落ち着いた、感じのいい部屋だった。
ただ、席はほとんど埋まっていなかった。六時半という時間のせいもあると思うが、静かすぎるくらいに静かだった。
あとで営業時間を確認して腑に落ちた。ディナーは18時から23時までで、ラストオーダーが20時30分。つまり私が座った18時半は、開店の30分後だ。そしてL.O.が20時30分なら、この店が埋まるのは19時台から20時にかけてということになる。静けさは店の人気の問題ではなく、単に私が早すぎただけだった。
シェアリング形式だと、知らずに入った


席に着いてから知ったのだが、この店は一皿ずつ選ぶ形式ではない。用意された数種類が全部出てきて、それを卓で分け合う。予約したときには分かっていなかった。
もっとも、店名がすでにそう言っていた。IGNIVは、カミナダの母語であるロマンシュ語で「巣」を意味する。中央に置かれたものを囲んで分け合う——店名そのものが形式の宣言だったわけだ。知っていれば、予約の時点で心構えが違っていたと思う。
形式としては、各コースごとに複数の料理がテーブルの中央に置かれ、それを取り分けていく。全体では17皿から19皿になるという。一皿ずつの正解を探しに行く店ではなく、卓の上の全体を受け取る店だ。
分け合う前提だから、皿はいちどきに何枚も並ぶ。
このとき3人以上で行っていた。あとから考えると、これは人数がいるほど成立する店で、二人だと一皿あたりの取り分が増えるぶん、終盤が重くなるかもしれない。

緑が、とにかく鮮やかだった
運ばれてきた皿を見て、まず色に驚いた。緑のソースとハーブが、皿の上ではっきりと主張している。写真に撮ると映える。
食べてみると、私の舌には合わなかった。香りの立て方や酸の使い方が、自分の慣れているところから外れている。タイの食材や香りが入っているのだろうと感じたが、そのぶん、どう受け止めればいいのか最後まで掴めなかった。

八時過ぎに出てきたのは、丸い石の台にのせられたラムのラックだった。これは分かりやすくおいしかった。
ラストオーダーが20時30分だから、八時過ぎのラムはコースの終盤にあたる。つまりこの店は、重い皿を最後に置いて終わる構成になっている。
星の味は、私には掴みきれなかった
全体として、一つ星と言われて納得したかというと、正直そこまでの感触は持てなかった。見た目のインパクトは強い。器も部屋も良い。ただ、味そのもので押し切られる瞬間が、この夜には来なかった。
これは店の出来ではなく、私の舌と好みの話だと思っている。旅の初日、着いたばかりで体も整っていなかった。同じ皿を最終日に食べていたら、違う感想だったかもしれない。
会計と、予約の前に知っておきたいこと
会計は、ワインのペアリングを付けて一人1万5千円前後だった。17皿から19皿のシェアリングに星付きの一皿ずつ、そこへペアリングが乗ってこの額なら、金額の納得感はある。掴めなかったのは値段ではなく、味の方向だった。
予約の前に知っておくとよいのは二つ。一つは、ここが一皿ずつ選ぶ店ではないこと。もう一つは時間帯で、ディナーは18時から23時、ラストオーダーは20時30分、ランチは平日12時から15時(L.O.13時30分)、土日は11時からのブランチになる。静かな部屋で食べたいなら18時台、店の空気ごと味わいたいなら19時台だろう。
この日のメモ
- IGNIV バンコクはセントレジス・バンコクの一階(159 Rajadamri Road/BTSラチャダムリ駅前)
- スイスの料理人アンドレアス・カミナダのブランド。ミシュラン一つ星(2022年獲得、2026年版まで維持)
- 一品ずつ選ぶのではなく、数種類が全部出てくるシェアリング形式。予約時に把握しておくと戸惑わない
- この日は午後六時半に入店、八時過ぎまで。時間が早かったこともあり客席はかなり空いていた
- 皿は緑を効かせた色使いが強く、写真映えする
- メニュー・価格・営業時間は変わることがあるので、公式サイトで確認を
同じ滞在で、いちばん記憶に残ったのは星のついた皿ではなくアイコンサイアムのモール内で食べたパッタイでした。
【バンコク】アイコンサイアムのロスニヨムでパッタイ。柔らかい麺に、シャキシャキの野菜がぶつかる
同じ滞在の四日目にはブルーエレファントの黄色い洋館で食事をしました。
※2025年8月訪問。会計の金額は訪問時点のものです。店名の由来、シェアリングの形式と皿数、開業日とヘッドシェフ、営業時間・ラストオーダー、住所は、2026年10月時点のIGNIV Bangkok公式サイトの記載で確認しました。営業情報は変更されることがあるため、お出かけ前に最新をご確認ください。


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