ホテルニューグランドには、朝食の選択肢がいくつかある。前に泊まったときは、本館一階のレストランで海を見ながら洋食をいただいた。今回は、五階へ上がってみることにした。京料理の店、熊魚菴(ゆうぎょあん)たん熊北店。京都に本店を持つ料理屋が、横浜のこのホテルに入っている。

エレベーターを降りると、石板に金文字で店名が刻まれた壁があり、その前に生花が置かれていた。奥に組子の衝立。朝の七時台の廊下はまだ静かで、絨毯の模様がやけにはっきり見える。
選ぶのは、御飯かお粥か
入口に置かれたメニューを見ると、朝の選択肢はふたつだけだった。和朝食と、京の朝粥。どちらも四千五百円(税・サービス料込み)で、突き出し四種盛り、焼肴、小鉢、焚合、味噌汁までは同じ構成。最後が炊きあがった御飯になるか、餡のかかったお粥になるかで分かれる。提供時間は七時から十時まで。

つまり、この朝に決めるべきことは一つしかない。御飯か、お粥か。旅先の朝にこれくらいの選択肢の少なさは、かえってありがたい。私は御飯のほうを選んだ。
焼鮭の、程よさについて
膳が運ばれてくると、思っていたより品数がある。塗りの箱に突き出しが四種、白身の和え物、明太、なます。青磁の器に焚合、胡麻をふったおひたし、香の物が四色、ちくわとわかめの味噌汁。中央に、焼鮭と卵焼き。

その焼鮭が、よかった。脂が程よく、塩気も程よい。強い味で押してくるところがまったくない。歳をとったせいだろうか、この「程よさ」がいちばんうまいと感じるようになった。小皿の料理もどれも同じ加減で、素材の風味が奥に残るように仕立てられている。海苔の香りが強かったのも印象に残っている。
最初は多いかと思った。突き出しに焚合に小鉢に、と数えて、朝からこれは食べきれるだろうかと。ところが箸を進めていくと、どれも量が控えめで、味が重なっていない。気づいたときには、あっという間に平らげてしまっていた。
海の見える洋食の朝も好きだが、京料理の朝には別の効き方がある。派手なものが何も出てこないまま、終わってみると満たされている。旅の途中で一日だけ、こういう朝を挟むといい。
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