Big4のコンサルタントとして働いていた頃、私は「考えること」と「売ること」は地続きだと思っていた。
課題を構造化し、仮説を立て、データで検証し、クライアントに提案する。その一連のプロセスに習熟していれば、自分でビジネスを立ち上げたときも同じように機能するはずだと。
独立してすぐに、それが幻想だったと知った。
「箱」は想像以上に簡単に作れた
合同会社の設立は、拍子抜けするほど簡単だった。定款を作り、印鑑を用意し、法務局に書類を出す。数万円と数週間で、「会社」という箱が手元に届いた。
登記完了の通知を受け取ったとき、少しだけ高揚した。でもその翌日から、誰も電話をかけてこなかった。誰も問い合わせメールを送ってこなかった。当然だ。看板を出しただけで、誰かが来てくれるほど、商いは甘くない。
コンサルティングファームにいたとき、私には「プロジェクト」があった。クライアントはすでにそこにいて、私の仕事は「いい仕事をすること」だった。しかし独立した瞬間、最初にやるべきことは「仕事そのもの」ではなく「仕事を取ること」だった。
この非対称性に、私はまったく準備ができていなかった。
フレームワークは、最初の顧客を連れてきてくれない
コンサルタントの仕事は、本質的に「思考の代行」だ。複雑な問題を整理し、意思決定を助け、実行を支援する。そのスキルは本物だし、価値もある。
ただ、それは「誰かがすでに依頼してきた問題」を解く力だ。
独立すると、問題が来る前に、自分を見つけてもらわなければならない。信頼してもらわなければならない。選んでもらわなければならない。この「選ばれるプロセス」は、MECE分析でも解けないし、ピラミッドストラクチャーでも整理できない。
「中身」——つまり、誰かに価値を届け、対価を得るという商いの核心——は、箱を作っても自動的には入ってこない。それは地道に、時間をかけて、積み上げるものだった。
コンサルタントとして優秀であることと、商人として生きることは別のスキルだ
この気づきは、自己否定ではない。むしろ、職種の違いを理解したということだ。
医師が優秀でも、個人クリニックの経営に苦労することがある。弁護士が卓越していても、事務所の集客に悩むことがある。専門能力と事業開発能力は、異なる筋肉だ。
コンサルタントは、クライアントの事業を分析するプロだ。しかし自分自身が事業を営む経験は、また別の学習曲線を持っている。どれだけ他人のビジネスを分析していても、その経験は自分の販路を作ることに直接は転用できない。
それを知るのが、独立した最初の年だった。
この経験から得た、静かな確信
あの頃の苦労は、今の私の基盤になっている。
「分析できること」と「売れること」は違う。「戦略を描けること」と「実行できること」は違う。「賢いこと」と「商売ができること」は違う。この違いを、頭ではなく体で理解した経験は、その後のすべての意思決定に影響を与えている。
Private Wisdomが伝えたいのは、「知識の豊かさ」だけではない。知識と実体験が交差した場所にある、静かで確かな洞察だ。
箱は作れる。中身は、積み上げるしかない。それが商いの、変わらない本質だと思っている。


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