横浜の新港ふ頭に、客室が海に向かって並ぶホテルがある。インターコンチネンタル横浜Pier 8。何度か泊まっているし、朝の海を見ながらコーヒーを飲む時間が好きなのだが、この場所には、そう頻繁には行かない一軒がある。三階の鮨処「かたばみ」だ。特別な日には、ここで食事をすることにしている。
店はホテルの中庭に面していて、カウンターは九席だけ。夜になると、ガラスの向こうの植栽が黒く沈んで、その手前に自分たちの姿がうっすら映る。客席のざわめきが遠い。埠頭に建つホテルの、いちばん静かな場所かもしれない。

ウニ、イクラ、そして海苔
目の前で、鮨種が整えられていく。白木のカウンターに置かれる小さな板の上で、包丁が入り、刷毛が動き、握られて、そっと差し出される。この距離で食べる鮨は、味の前にまず所作を食べているようなところがある。
ウニとイクラは、やはり格別だった。海の甘さが舌の上でほどけて、後から潮の香りが立ち上がってくる。とりわけ印象に残ったのは海苔で、口に入れた瞬間に磯の風味が広がる。軍艦の海苔が、ここまで主役になれるものなのかと思った。
その海苔は、横浜・神奈川区の蔦金商店のものだと聞いた。明治二十七年創業、百三十年あまり続く海苔問屋で、出川哲朗さんの実家としても知られる店だという。港の鮨屋の軍艦に、同じ街で百年以上商われてきた海苔が乗っている。産地の話ではなく、街の話としてつながっているのが、妙におもしろかった。

この日は、娘のために生のタコも用意してもらった。加熱していないタコは、噛むほどに甘みが出る。娘は大喜びで、私たちの分まで狙うような顔をしていた。子どもの好物を覚えていてくれる店は、それだけで特別な店になる。
盆に乗った、神奈川十四蔵
この夜のもうひとつの楽しみは、地酒の飲み比べだった。六種。木の盆に小さなグラスが並び、その手前に、蔵の名を記した札が置かれる。

相模灘、盛升、おふしょあ、残草蓬莱、いづみ橋、熊澤。並んだ名前を眺めていて、あることに気づいた。神奈川の蔵ばかりなのだ。相模原の久保田酒造が造る相模灘、厚木の黄金井酒造の盛升、愛川の大矢孝酒造の残草蓬莱、海老名の泉橋酒造のいづみ橋、そして茅ヶ崎の熊澤酒造。神奈川県には十四の酒蔵があるが、そのうちの五つが、この一枚の盆に乗っていることになる。

飲み進めると、県内といっても味の幅がずいぶん広いことがわかる。すっきりと辛いもの、米の甘さが前に出るもの、酸がきれいに立つもの。同じ神奈川の水と米から、これだけ違うものができる。鮨と合わせながら、札を並べ替えるようにして飲んだ。
横浜で食事をするとき、私はつい海の見える席を探してしまう。けれどこの夜のように、中庭の暗がりに向かって座り、九席のカウンターで手元だけを見ている時間も悪くない。特別な日というのは、たぶん場所の派手さではなく、そういう静けさで決まる。
鮨処「かたばみ」よくある質問
「かたばみ」はどこにありますか
横浜・新港ふ頭のインターコンチネンタル横浜Pier 8、その三階にある鮨処です。店はホテルの中庭に面していて、夜になるとガラスの向こうの植栽が黒く沈み、その手前に自分たちの姿がうっすら映ります。埠頭に建つホテルの、いちばん静かな場所かもしれません。
席数はどのくらいですか
カウンター九席だけの小さな店です。席数が限られるため、予約の可否や営業時間はホテルの公式サイトで最新をご確認ください。
神奈川の地酒の飲み比べは何種類ですか
私が頼んだ日は六種でした。木の盆に小さなグラスが並び、手前に蔵の名を記した札が置かれます。相模灘(相模原・久保田酒造)、盛升(厚木・黄金井酒造)、おふしょあ、残草蓬莱(愛川・大矢孝酒造)、いづみ橋(海老名・泉橋酒造)、熊澤(茅ヶ崎・熊澤酒造)。神奈川県には十四の酒蔵がありますが、そのうちの五つが一枚の盆に乗っていることになります。内容は時期によって変わります。
とくに印象に残った一品は
ウニとイクラ、そして軍艦の海苔です。口に入れた瞬間に磯の風味が広がり、海苔がここまで主役になれるのかと思いました。横浜・神奈川区の蔦金商店のもので、明治二十七年創業、百三十年あまり続く海苔問屋だと聞いています。港の鮨屋の軍艦に、同じ街で百年以上商われてきた海苔が乗っている——産地の話ではなく街の話としてつながっているのが、妙におもしろく感じました。
子ども連れでも楽しめますか
この日は娘のために生のタコを用意してもらいました。加熱していないタコは噛むほどに甘みが出て、娘は大喜びで私たちの分まで狙うような顔をしていました。対応の可否は店の状況によりますので、予約時に相談されるのが確実です。
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